他に委して先祖に詫びる早苗饗 | かぎやで風・NPO法人クリオン虹の基金

遠い人にも身近な友にも[コラム]~~かぎやで風~~

石を踏んだ足の痛みではなく、踏まれた石の痛みに軸足を置きながら、その折々、考えたこと、言うべきことを記します。

他に委して先祖に詫びる早苗饗【No.303】

2018.06.06

〈芒種〉2018/06/06
  今、塩田平のすべての田には水が張られ、水面に頭を出した苗並が風に揺れている。かつては、家族にとっては総出の一大イベントともなり、あぜ道では孫子が遊んでいた風景が消えてから久しい。高齢化と減反政策の波が押し寄せ、米作りは大型請負農家か農業法人の手に委ねられてしまった。
 私の手元に、時を同じくして俳句同人誌『「天荒」特集「天荒」60年記念号-沖縄を語る―』と、乗松聡子著・編『沖縄は孤立していない』(金曜日刊)が届いた。
「天荒俳句会」は、主宰者野ざらし延男氏が1982年に発足し、二つの定期刊行機関紙を発行されている。「天荒会報」は1988年の創刊から514号が発行され、同人誌『天荒』は、1998年から年三回の定期刊行と、旺盛な制作意欲が満ち溢れている。その記念60号を開くと、その扉に天荒の二文字に„破”の一文字を冠するために、心血を注ぐ、とある。
 主催者が心に刻む「沖縄を掘る――孵(す)でる精神」が、同人各人の句は、琉球弧の大地にへばりつき、怒りや悲しみの時の重さを吐き出すように、私たちに叩たたきつけてくる。
『天荒』誌が2017年の第七回「編集賞特別賞」(全国俳誌協会主催)を受賞したとの新聞報道があり、琉球弧の地べたに這いつくばり、怒りや喜びや命の鼓動を聞き分けることができる人たちが書き残した俳句やエッセイ、評論である。
 審査員のおひとり恩田侑布子氏(俳人)の講評を拝見するだけで、『天荒』受賞の理由がすへて言い尽くしていますので転記させていただきます。
「一押しは沖縄の『天荒』でした。自然の美に逃げ込まず、現代の日本と世界に真っ向から対峙する意気軒高さに驚倒しました。自分たちが新たな歴史を作っていくのだという気概と、反骨の批評眼を持ち、俳句で実践しています。(攻略)」
『天荒」主宰者の野ざらし延男氏の二句を掲載する。
 油蝉一家全滅の柱で鳴く
 洞窟(ガマ)の眼窩に青空を点眼する
 次に乗松聡子著・編「沖縄は孤立していない」の良著に触れたい。
乗松聡子さんは、2015年、信州沖縄塾が開催した講演会『平和の日本、沖縄をつくるために』で、「アメリカから見た日本」(ピーター・カズニック氏 アメリカン大学教授)、「日本人の沖縄への責任」と乗松聡子氏(ピース・フィロソフィー・センター代表)のお二人に講演をお願いした経緯もあり、特に、その後、乗松聡子さんは沖縄の新聞紙上で鋭い論陣で、平和問題の課題を指摘し続けている姿勢に尊敬と共に共感を禁じ得なかった。
「平和」のために考察し、論述し、伝え、行動する世界の良識人を「沖縄」に目を注がしてくれた乗松さんに、まず、在日ウチナーンチュの私は、お礼を申し上げるだけである。
 早速、アマゾンのレビュー欄には悪意のある書き込みがなされているが、「本土にも米軍基地があり、騒音被害や基地提供がなされている、何も沖縄だけが特別な被害を被っているわけでない」。と、書き込んだあなたに問いたい。察するところ、貴殿はデスク上のイマジネーションで、被害者面をするなと指弾されていおられるが、察するところ、貴殿は嘉手納や岩国、普天間で、ご自身の生活圏を四六時中その隣接地で生活体験をお持ちでないようですね。そうでなければこんなにも『騒音』に、こんなにも物分かりの良い、「米軍・自衛隊基地の良き隣人」は居られないからです。
 同著の巻末で普久原均氏と高良鉄美氏が同書の論評をなっています。これ以上の書評は私の域を超えており、私が新たに述べる余地は寸分もありません。
名護市長選挙の敗北、南城市を除く主要市長選挙では、ことごとくオール沖縄が支援する候補者が落選してしまいました。その上、オール沖縄の組織基盤のきしみ、翁長知事のご病気等、今、取り組まれている県民投票をめぐる市民運動間のもやもやとした股裂きという何とも悩ましい問題が起こり、特に、連日、基地の前で身を張って闘っている人たちは、ある虚脱感、沖縄方言で言うところのチルダイ状態に襲われている。その時の今だからこそ、乗松聡子著・編『沖縄は孤立していない』が、出版されたことは、大きな勇気と再度のエネルギーの活力源を与えることでしょう。
 乗松聡子さんしか成し得ない、情報発信力と国際的な視点、国際的文化人のネットワーク化によって、この本が世に出たと思います。
 読みやすさの原点は、著述者の論点が明確であること。それこそ、限られた文字数で、自らの主張を分かりやすく述べる、とても、勉強になりました。そして、「編者からの一言」は実に的確で、各論者の主張を極出させてくれる、抜群の編集になっています。
 私に、特に、新たな刮目を与えてくださったのは、お会いする機会ができたピーター・カズニック氏と、他の論者では崔誠希氏、ブルース・ギャグノン氏のメッセージに心が魅かれました。
乗松さんは大田昌秀氏との出会いや氏の功績について、いたるところで書いておられるが、私の本棚の奥にも「醜い日本人」(サイマル会刊)がある。1958年、刊行と共に買い求め、かつての教育大学新左翼系学生グループの10数名から招かれ、一年近く、月二回の学習会をつづけたことを思い出します。あの頃の若者たちは、皆、国家も沖縄も真剣に論じていました。それを、今に重ねて感慨一入です。ぜひ、沖縄に心を寄せておられる一人でも多くの方々が、『沖縄は孤立していない』のページをめくることをお勧めします。

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